家出猫の行方

朝起きたら、まぶたが開かなくてどうしたのかと思っていたら、まぶたがばけもののように腫れていた。思わずぎゃっとなるけれど、過去に経験があるからそう慌てない。これは、むくみ。ホルモンバランスが崩れて、代謝が悪くなり、皮膚の薄いところに水がたまるの。さすがにこんな顔では会社にいけないし、お休みする。体がだるいから、ひたすらこんこんと眠る。雨の日のねこのように眠る。その日は同居人のバースデー。仕事で遅くなるということだったから夕ご飯を作って待っていようとはりきっていたのに、起きたら夜8時過ぎだった。一体何時間眠っているんだろう。仕方がないから近所の貧相なスーパーにぼさぼさの頭でだるだるの部屋着という情けない格好のまま買い物に行き、蒸し鶏の香味チキンという、至極簡単な料理を作る。11時前に帰ってきた同居人に、おめでとうと言い、もそもそとご飯を食べる。デザートは?と言われたので、両手を挙げて「私」、と答えるけど、「口の周りをふけ」と言われたので、素直に口の周りのチキンソースを拭う。こんなに、リラックスした付き合いだ。

寝る前に、赤ちゃんが欲しいのだけど、と言ってみると、分かってるよ、という返答。「でも、ちゃんとしたらね」。
普通に妊娠しない方法でセックスをする。

なんか、みんな身勝手だなあ、と思う。
この一週間で、浮気予定相手には情況の変化を理由に2000年の延期を申し出られ、別れて5年がたつ8年来の付き合いの妻子持ちの男にスペイン旅行に誘われ、2年ぶりに電話をかけてきた美少年には、やっと電話で話すことができた、と思わせぶりな台詞を言われて久しぶりにときめいた。おそらく最も今後が有望な同居人には、受精拒否をされている。


ほんと、みんな身勝手なこと。


昔、飼っていた猫は、よくうなされていた。険しい顔で、ときに、うみゃあと寝言をいうので、どんな怖い夢を見ているのだろうとこちらが心配になって揺り起こすと、この世のものとは思えないほど不機嫌な顔で、睡眠を妨害されたという怒りをあらわにして、私の手の届かない棚の上のお気に入りの寝床に帰ってしまうのだ。あの子は一体どんな夢をみていたのだろう。結局あの雄猫は、近所の猫たちのマドンナ強奪選に破れ、家を出て行った。恋に破れて家を捨て街を立ち去るなんて、なんて潔いこと。
こんなところでいつでも私は窓口をオープンにしているから、かつての男たちが帰ってくる。あっさりしているんだか未練たらたらなんだか分からない。
いっそのこと塔にでも閉じこめてくれたらいいのに。