L’INSTANT MAGIC

かつて私は香水を非常に愛したけれども、最近ではほとんどつけない。今ではとても気分の良い休日、お洒落をしてお買い物にでるときに、ゲランのアクアアレゴリアを少し耳の後ろにつけるくらい。「ランスタンドゲラン」なんかをうなじや膝の裏につけて立ち上る香気に酔った若かりしころもあったけど、最近ではそれもこっぱずかしい。香水をうまくつける男と一緒にいるときは、その香りに圧倒されそうになるからこちらも香りの武装をした。でも、相手がつけない状態だと、自分の香水が妙に人工的でわざとらしくて、退屈になってしまう。
それでも新しい恋が始まると香水を変えたくなるというのは本当で、まあそれは、体に染みついた今までの匂いを忘れたいというのが、どこかにあるのだろう。
かつて、香水を贈ってくれた男がいた。贈ったこともあった。贈られる香水は非常に楽しくて、ふーんこれが理想なの、と思う。それは、反対も然り。だからたぶん、自分の人生でもう二度と、香水は贈らないと思う。

今日、会社に新人が入ってきた。見かけも声も煙草の吸い方までも、かつての恋人そっくりだ。しかも、香水の銘柄まで同じ。私が彼に出逢った、ちょうど5年前の彼が目の前にいるみたい。
だからと言って、ときめくかというと、そうでもない。そんなに回路は単純にできていないし、むしろ、そのありきたりな香水を選ぶに至った24歳の男子の心理に興味が湧く。
とはいえ、私はちょっと楽しくて、毎日の生活に張り合いがでて、うきうきと着ていたブルーと赤のワンピースについて「フィフスエレメントみたい」とか言われても、そう、昨日アルマゲドン観たから私も地球を守らなきゃと思ってさ、とにこにこと答えることができる。
それで張り合って、おそらくクローゼットに転がっているであろうそのありきたりな香水のペアバージョンをつけてこようかしら、などと思うけど、29歳の女はそれも想像で終わらせる方が楽しいことを知っていて、どうしよう、帰り道に新しい香水を探しに行こうか。