Harder to Breathe

恋が始まると、睡眠時間が減る。体が、心が、眠るのを惜しむ。音楽が、映画が、言葉が、昨日までとは打って変わってきらきらと輝いて、生ぬるい肉体に突き刺さる。その絶え間ない波動は息ができないほどで、私はそんな目覚めの時を、人生で一番愛している。
始まりはいつだって、素晴らしいもの。



昨夜は夜更けまで言葉を交わしていた。その夢の続きで朝は起きてすぐに「クラッシュ」を観た。本当に素晴らしい映画だった。奇跡と運命と、希望と絶望。あらゆる感情が繊細に複雑に絡み合う。見終わった後もしばらくは「クラッシュ」の色から抜け出せずに、そのまま銀座に向かう。
ルフレッド・バニスターで奇跡的にかわいい靴を見つける。その靴の前では、他のあらゆる靴が凡庸で退屈なものに思えるほど。あいにくサイズがなかったので調べてもらうと、仙台に1足残っているとのこと。もちろん取り寄せてもらう。
銀座には魔物が住んでいる。つい2日前も3着洋服を買ったばかりなのに。
それでも、なんだろう、今なら、すべてが可能だと思える。何でも手に入ると思うし、入れるべきだと思う。
今日の銀座は雨模様で、秋雨の冷たい日の様相を呈しながら、実は結構蒸し暑く、気持ちがこんがらがる。せっかくグレーのトレンチを着たのに、いそいそとブーツを出して履いたのに。それでも頭の中ではJanet Jackson&Nellyの「Call on me」が流れていて、なぜかこういう不快な季節でもセクシーに思える。有楽町駅前は大規模な工事をしていて、あと少しで、この辺りは全く違う風景になるだろう。工事のおかげで作業車や通行規制が多く、歩きづらい。でも、私はなぜか寛大な気持ちで「よかろうよかろう」と思っている。「変わるがよかろう」と。
偶然通りかかったランジェリーショップで(うそだ確信犯だ)、ふらふらと下着をみる。下着は女の子にとっての鎧なので、これがいい加減だと戦えない。いくつかの新作の中で、ひときは美しくラブリーなブラジャーを見つけ試着をする。それは、美しい素材に繊細なレースが施された、今までになく豪華で満たされた気分にさせてくれるもので、私は一目で気に入った。最高の旅装束だ。もちろんショーツとセットでなくてはなんの意味もないので、うっかり値段を確認せずに購入したら、なんと25000円もしてショックを隠せない。やられた。てっきりサルートだと思っていたら、サルートよりもさらにラグジュアリーなワコール最高級ブランド「Treflehttp://www.wacoal.co.jp/products/trefle/なんですって。もちろん、これは私の完璧な失態であるが、25000円て。でもフィッティングをしてくれたかわいい店員さんの「これをつければ、夢のような一日が始まりますよね」という言葉は、まさにその通りだな、と思う。これは、手に入れるべき美しさ、完璧さ。
一人で楽しむには25000円はあまりにも高いけど、「大丈夫。買って良かったと思うほど愛でてあげるよ」というメールが届く。買って良かった、と思う。
ふと、さっきの靴の値段も確認していないことに気がついた。注文書を見ると48000円。はーーーー。


その後、新宿にて、昔なんらかの都合で1,2回寝た男の子と食事。逢うのは1年半ぶりくらだ。コンランショップの包み紙をくれた。誕生日プレゼント。フライングの誕生日プレゼントは、今年の一番のり。29歳になっても、誕生日は嬉しい。
トリッパを食べながら、「私、浮気をしようと思うんだけど」と相談すると、「いいんじゃない?」と気のない返事。「俺もしてるし」。仲間がいると心強い。
帰り道は、妙に心細い。誰かに電話したくなる。でも誰に電話すればいいんだろう?
話したいときに話せる相手なんて、今までの人生にいたためしがない。
とたんに、何もかもいらなくなる。何が必要なのか、わからない。全然わからない。
とりあえず、YouTubeで音楽を漁る。今ほどYouTubeが素敵だと思ったことはない。iPod touchが欲しいと思うくらい。
そいうえば、今までの恋人にはすべてテーマ曲を与えていた。
次は、どうしようかな。
もう、卒業かな。これ以上、聞けない音楽を増やすなんて。