ディンツリー

Chartreuse2007-09-27

隔絶されたOrpheusからケアンズに戻ったとたん、微熱が続いた。
ケアンズのマリーナに面した大規模な日本人向けホテルでは、NHK放送が福田氏の内閣総理大臣決定を伝え、Macのスイッチを入れたとたん無線Lanが起動し様々な情報やコミュニケーションを蘇らせた。きっと、食べることと眠ることと愛すること以外不必要だった場所にいた体が、急な変化になじめなかったのだろう。
のどが痛いわけでも咳がでるわけ鼻水がでるわけでもなく、ただひたすら微熱が続く。朦朧とシーツにくるまりながら、なんてエロティックなんだろう、と思う。どことなく関節が痛く体がだるい。私の体は内側から熱を発し、役立たずの耳が遠くの雷雨のような音を聞き分けようとする。雷雨は繰り返し、何かを言っている。たぶん、ひどく重要なこと。熱を確かめようと額に手を当てる恋人の手がひんやりとして気持ちいい。だからその手をシーツの中に引き入れる。冷たい、冷たい手がなぞる跡だけが、私の体が存在を証明する。残りの私の体はどこへ?たぶん、ずっと遠くへ。

翌朝はすっかりと熱が下がり快調だった。背中から腰にかけてほんのり残る痺れが熱の爪痕を残しているけど、むしろそれが心地よい。
腹ぺこの連れとカフェに向かい、簡単な朝食を済ませ最後の目的地、ディンツリーへ向かう。ケアンズからポートダグラスまではキャプテンクックハイウェイをひたすら北上するだけ。いくつかのランダバウトを超えると、いきなり海が現れる。広大な海岸線。ダイナミックなパノラマ。思わず歓声があがる。
ポートダグラスは落ち着いた良い街だった。特に何があるわけでもないけれど、ぶらぶらとしてビールを飲むには最高。さらに私たちは北上して、モスマン渓谷へ。ここで私は出発前から期待していた『清流ショット』を撮りたかったのだけどあいにく今は乾期。水量が圧倒的に少ない。期待していたような清らかな水が岩の間から迸るように流れてくるようなショットは撮れなかったけど、ここは自然にできた川のプールがあり、泳ぐことができる。透明度も高くお魚もいっぱい。水は結構冷たいけれどとても気持ちいい。日本でもこんな場所があればいいのに。おそらく日本では『遊泳禁止』と書かれたなんの色気もない看板が「だめ!」みたいなマークとともにあっさりたてられて終わりなのだろう。まあしょうがない。危険か危険じゃないか自分で判断できない人が多い国だ。事故があればすぐ人のせいにする。オーストラリアではこんな場所で泳いでいいのかい?と思うようなところでも子供が平気で遊んでいる。でも事故は滅多におこらないんですって(もちろん起こるときは起こるけど)。子供の頃からそういう場所になれているから的確に判断できるんでしょうね。

その後、最後の取材地、SilkyOarksLodgeへ。ここは熱帯雨林の森の中にあるロッジ。鬱蒼と木々の生い茂る森の中にある。ロッジは鳥の声に満ちていている。鳥の声は本当に愛らしく美しく、どれだけ聞いていても飽きない。どうして、そんなに透明感と艶に溢れた声で鳴けるのか。
こちらも宿泊施設はすべて独立型のロッジスタイルとなっていて、森の中にあるTreeHouseと川に面したRiverhouseがある。部屋にはテレビはなく、広いバスルームと大きな窓に面したベッドルームという作り。入り口から中が見えないようパーテーションがもうけてある点もすばらしい。
リゾートの中心はこちらもラウンジとなっていて、川に面した高台に、まるで空中に浮かぶように作られている。紅茶やカクテルを飲みながら本を片手に過ごすだけでも楽しい。目の前の川では泳ぐこともでき、シュノーケリングセットも貸してくれるけど、「水は冷たいわよ」とスタッフのターニャさんはウィンクする。
本当に、限りなく穏やか。
私たちはいくつかのスポットで撮影をし、その後夕方になるまでテニスをし(高校の授業以来初テニス。テニス歴20年の恋人を、私はウィンブルドンに出たことがある、と言ってテニスに誘ったが、すぐに初心者だとばれたよ)、夕陽の時間を狙ってまた撮影にでかけた。川を少しだけ上流に歩くと、きれいな砂浜の「beach」があり、その前はまた自然にせき止められた水が貯まって小さなプールになっている。しばらく見ていると、たくさんの魚や亀がいることに気がついた。亀が魚をつつくので「食べるの」と訊いたらスタッフが「遊んでるだけだよ」と教えてくれた。何か、泣きそうになってしまう。亀が魚と遊んでる、なんて。

その後夕食の時間までラウンジで夕暮れの時間を過ごし、隣のレストランへ。ここの夕食はアラカルトとなっており、毎晩コースディナーをフルに食べさせられる身には非常にありがたい。しかも全てとてもおいしい。今回の取材で食べた食事のなかでここが一番。もし日本にいても、このレストランならばときどき食べに行きたいと思うんじゃないかな。おおよそ、センスというものが感じられない料理が多いオーストラリアで、ここのシェフは非常にセンスが良い。

さらに、もうひとつ素晴らしいのは、ここのバスルーム。二人で入ってもまだまだ余裕のある広いバスタブは、「プレジデンシャルスウィート」や「デラックスビューバス」などという特別なランクの部屋をのぞいて、私が今まで行ったホテルの中で一番大きい。たっぷりお湯を張ってジャクジーのボタンをオン。憎らしいことにバスルームには1個5ドルでバスボムが置いてあり、当然これは使うしかない。照明をぎりぎりまで落としたバスルームはもういちゃつくしかないシチュエーション。
今回の旅も残すところあと一日です。