私が今の彼氏と別れられない最大の理由は、彼のマンションの居心地が最高にいいからです。最上階で日当たりがよいリビング。広いベランダ。食器洗浄機と乾燥機付の洗濯機。プレステに無線ラン、テンピュールマットレスに広いお風呂。
これさえなければ、私はさっさとでていけます(というか同棲しなかっただろうたぶん)。
人間とは弱い物で、私はかつては1ルームのぼろアパートにたくさんの本と共にぼそぼそと生活していたのですが、もうあんな暮らしに戻りたくない。きのこの生えそうな家はもういやだよー。

だけど、やっぱり限界っぽいです。あまりにも恋人はのんきすぎて、ついていけない。私はいろいろと訴えてみたのだけど、彼は嫌なことは寝て忘れるという非常に便利な作りなので、彼の心に一生私の不安は届かない。

ぎゃんぎゃんわめく男はもとから嫌いだけど、ここまで寡黙で頼りない42歳もいや。まあでもそれは治らないんだろう。私のかつて付き合った男はおしなべて浮気性で、私は、次は絶対に私一人を、心から愛してくれる人と付き合うと誓った。その願いは届いて彼は私一人を心から愛してくれていると思う。だけど、浮気性がなおらないように、ずば抜けて暢気で優柔不断なのも治らないのだろう。同い年ならまだしも、もう子持ちの中年なんだからしっかりしろよってそろそろ本気でいらいらして、それでもう、ちょっと絶望です。
結婚しないのならしないでいいのだけど、私だっていつまでもここにいるわけにもいくまい。また家を探さなきゃだー。あーあ。誰か海外に行くから僕のマンション自由に使ってくれて良いよとか言ってくれないかなー。空き家にしとくと家も荒むし、ほら誰か使ってくれた方が僕としてもありがたいんだよ、家賃なんて気にしなくてもいいよ。その代わり光熱費だけ払ってくれるかい?とか言ってさー。

って言ってみても、私は結構本気で落ち込んでいます。私がここまで落ち込んでいることを、あのバカは知らないんだろう。取材を終えて六本木から表参道までてくてく歩くその間にぼろぼろ泣くことを、あの人は知らないんだろう。私は無理は言ってないんです。最大限譲歩して、思いやって、妥協点を探して、前向きな提案をいくつかしたのに。親切にも、「参考までに、あなたと結婚する可能性は50%だ」と、肺胞が焼け付くような思いで言ったのに、あのバカは頭にタオルを巻いてじっと天井を見ていた。言っても言っても言っても、ブラックホールみたいに言葉は吸い込まれて、貝みたいに黙りこくっている。「結婚は延期してあげよっか?だったら別に急いで両親に会ってもらう必要もない(今のあなたを両親に紹介する自信は失せました)」と言ってみても、無反応。
もう疲れた。また家を探して、家具とか家電とか買って、住民票を移して、住所変更とかしてって考えると、はあ、てなるけど、でもまあ、結局私は一つのところにはとどまれないんだろう。だけど、哀しいです。別れるというのはつくづく、体力がいること。