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Chartreuse2006-01-30

ちょっとスキーに行ってきました。
27歳にして生まれて初めてのスキー。歳を追うごとに生まれて初めてのことというのは少なくなっていくものですが、ほかに代替体験のない行為という点からしてもスキーというのは全く未知の体験といえるだろう。
目指すは初心者に最適と思われる軽井沢。長野新幹線に乗ってしまえば1時間ちょいでついちゃいます。近いねー。この距離感は名古屋東京間の感覚にちょっと似ています。もうちょっとだけ旅風情が味わいたい。とはいえ、ホームに降り立てば、軽井沢。マイナス2度でございます。ユニクロ2990円のエアテックコート、あったかいなー。

宿泊は軽井沢プリンス。東館は満室だったので西館なんですが、11時前についたのにもう部屋に通してくれてラッキー。部屋でスキーウェアに着替えて(苦しい)、いざ出陣です。スキーウェアでがさごそと歩くのはなんだか宇宙飛行士みたいで楽しい。実はこのスキーウェアは、恋人の亡き妻のもの。一回くらいしか着ていないのでとてもきれいだった。「気になる?」と尋ねたのはむしろ私のほうで、「スキーウェア」のような色気のないものについては、あんまり私は気にしない。これが、「アクセサリーケース」だとか、「ツルバラの苗」だとかだったらだめ。このへんは男女間の意識格差なのかもしれない。アクセサリーケースやバラの苗なんかは、男の人にとってはとくに過去を喚起させるものじゃないかもね。それよりは同じスキーウェアで目の前に現れるほうがずっと強く、思い出したり比べたり重なったりしてしまうだろう。でも、私は気にしない。中身は私よ。なんて思ってたら盛り上がって、部屋にリフト券を忘れたのでぶつぶつ言いながらとりに戻った部屋でじゃれ合う。あーあ。なにしに来たんだか。
と、ロマンティックなことを言ってみても結局一度しか着ないかもしれないスキーウェアに数万円だすのは惜しくて、家に新品同様のスキーウェアがサイズもぴったりであったのだからこれを利用しない手はないと思った貧乏根性。今無職だし、出費はちょっとでも少ないほうがいい。背に腹はかえられんってやつです。

さて、というわけでちょっと時間をロスしたあとようやくスキー場へ。まず驚いたのは、ブーツのきつさです。足首曲がらん。ふくらはぎが痛い。階段が降りれません。次から次へと不平をいう私のスキー板を無言で持って恋人はゲレンデに向かう。
今日の先生は恋人です。スキーは3年ぶりだというので滑れるのー?などと言っていたけど、侮っていた。スキー板を履いただけでつるつるすべってすっころぶ私に半ば呆れてだんだん冷たくなっていく恋人。実はその昔(江戸時代後期くらい)都大会にでるほどの実力の持ち主だったらしい。それをこのゲレンデで聞いて逆恨みする私。
ちょっとだったら私がスキーに行きたいといった時点で、もうちょっと自分の腕前をアピールしてみたらどう!?悪いけどオレはうまいよとかさあ。
そんな不当な文句を聞き流して恋人はすいすい滑っていっちゃって、それでも一番高いところからすいーって滑っちゃうのはかっこいいなあ。これから毎年10年間スキーに来ても私にはあの斜面は下れないだろうと思いながら、私は、初心者とファミリーに最適なうさぎちゃんコース。日が暮れる頃にはなんとか転ばずにうさぎちゃんコースが滑れるようになりました。

その後部屋に戻ってちょっと休憩して、もっかいベッドでごろごろして軽井沢ショッピングセンターに行く。駅前にあるアウトレット。NIKEのスニーカーを手に入れご満悦。
プリンスホテルはまあまあのサービスの割にごはんのまずいホテルとして記憶されているんですが、案の定ここも食指を動かされそうなものはなく、食べにでるのもさぶかったので部屋でピザハットを頼む。そんで軽井沢地ビールと白ワイン。どこがあげてるんだか冬の夜空に花火があがり、暗くした部屋から花火を眺めつついただくピザは、それはそれはおいしく感じました。

疲れ切って9時過ぎにはおやすみになった恋人42歳は深夜3時半に私を揺り起こして遊技。その後室内で煙草を吸い始める。なんて迷惑な人だ。換気のためにあけた窓の隙間から湿気を含んだ冷たい空気が流れ込んできて、乾燥しきった部屋で横たわるカラカラの身体に、一連の水のように夜の空気がふれる。その冷たい空気を飲み込みたいと思う。口を開けた瞬間に、煙草の燻された匂いが肺を満たす。いつものメンソールの香りじゃない。もっと木の屑を燃やすような匂い。0.03の視力は窓辺で煙を吸ってははき出す恋人の背中をぼんやりととらえる。深夜の音で耳が痛い。
涙が出てくる。
帰省したときに父に話した。今付き合っている恋人のこと。15歳年上で子供がいること。
籍を入れる必要はないのじゃないか、というのが父の答えで、お互いが好きで必要ならば、いたいだけ一緒にいればいい。ただし、結婚という法律に縛られるような必要が、根拠が、私たちにあるのか、考えてみろ、と。
それを聞いたときに、険しい道だな、と思った。父は比較的革新的な考えを持っているとはいえ、所詮は田舎の伝統的な家系の人間で、私の話を聞いたときに、「盛大な結婚式はできなくなったな」とまず言った。頭から私のつきあいを否定はしなかったものの、彼がどれだけがっかりしただろうかと思うと胸が痛い。
そして、この恋は、今までの恋と同じものとしかみなされなかった。
結婚がゴールではない。ゴールではないけれど、何かの一つの絆ではある。それが得られない私たちは、永遠に恋人関係でいなくてはならないのか。


あまりの夜のうるささに、たえきれなくなって、言う。


あなたが、120歳のとき、私は105歳。あんまり違わない気がするね。


恋人はちょっと振り返って鼻で笑って、その後煙草をもみ消しやってきて、ベッドに寝ころぶ私にキスをする。煙草の味。
そう。私は煙草味以外のキスを知らない。



朝食はバイキング。様々なものがテーブルに並ぶけど、あんまり食指は動かない。そもそも私はバイキングという制度がとても嫌いで、どうして私がわざわざ立ち上がってごはんと取りに行かなくてはならないのだろう。ワンプレートにスクランブルエッグとなすのおひたしと小龍包がならぶ他人のお皿をみるだけでもげんなりしてしまう。それでも軽井沢プリンスには家族連れが多く、とくに小さな子供を連れてスキーにくるような家族はつまり親がスキー大好きな訳であって、そういう家族はとにかくスキーが思う存分できれば幸せなのであって、朝ごはんにはなんの不満もなく、今日も一日滑りまくるぞ!とこの晴天をこころから楽しんでいるようで、箸も進むようだ。テーブルロールを富士山のように積み上げたお父さんが子供たちの待つテーブルに向かう様を眺めるのは、それはそれで悪くない。



さて、本日も私はうさぎちゃんコースを何回も滑る予定だったのだけど、恋人に山の頂上まで連れて行かれる。たいしたことない、と恋人は言うが、たった3度斜度が違うだけで私にとっては一大事。それはそれは怖くて、降りる頃には半べそだった。二度とこの人とはスキーに行かないと思ったけど、豚汁を買ってもらって飲んでるうちにおちついてきて、リフトも停電になってしまってこっちの方面はつかえなくなってしまったので、うさぎちゃんコースに戻る。うさぎちゃんコースは楽しい。そんな感じで、私は始終うさぎちゃん。恋人が疲れてレストハウスで休んでいても、一人でうさちゃんをばかみたいにくるくる滑って、帰る時間。楽しかったなあ。

身体中が痛くて痛くて、もうたまらないけど、でもとても楽しかった。
来年もスキーにいくぞ!