呪いを解く呪文

最近まで、ジープもハイエースも、車種名ではなくそういう車の総称だと思っていました。たとえば、セダンとかワゴンとかそういう感じ。まだまだ知らないことはたくさん。

久々にやっちまいました。めでたく転職も決まり(そう転職活動をしてたんですよ。就職して5年目にして4度目の転職です。ははは)、同僚と打ち上げ。会社はめちゃくちゃな会社だったけど、同僚はみなとてもいい人ばかり。変な会社だけど楽しかった。別れるのは辛いです。で、まずは立ち飲みで3人でワイン3本が空き、遅れてきた恋人を交えてさらにもう一本。その後、なぜかホルモン焼き屋に行き、生ビールアンドホルモン。ああ、そうえいばこのホルモン焼き屋は恋人と私が交際を始めるきっかけとなった場所だねえ。私はこの店に来たことすら忘れるほどべっらべらに酔っぱらってその後円山町。人生でもっとも反省した一夜でした。あれから数日、私は嫌悪感と罪悪感ではち切れんばかりで、まさかこの人と、付き合うことになろうとは夢にも思わなかった。こんなに大切な人になろうとは。何があるんだか、人生わかんないです。ほんとに。やっぱり昨日もほぼ記憶がないけれど、その後さらにカラオケに行って、帰ろうとしてタクシー乗り場に行ったら長蛇の列だったんで、ぎりぎりで深夜バスに乗って帰宅。深夜2時の川沿いの凍るような道を、恋人と並んで小走りで歩く。酔ってきしむ頭で、桜並木を見上げれば、裸の枝には氷の花びら。春になれば私たちは、柔らかな夜の白い桜の花びらの下を並んで歩くのだろう。確信。今までの派手な恋では一度も得られなかった、確信というもの。これがこんなに魅力的なものだとは、知りませんでした。

起きたのは9時過ぎで、早起きな恋人にしては珍しい。セックスの後恋人は必ずゴミ出しのことを思い出すらしく、終わって60秒以内にゴミの話はしないで、とあれほど強く言ったのに、今日もゴミを出し損ねたことを悔やんでいる。でも今日は怒らずに、そんなにがっかりしないで、と慰めてみる。ゆっくりと朝ごはんを食べた後は、神保町へ。1年ぶりくらいかな。再来週に決行される、生まれて初めてのスキー用品を買いに行く。そう。スキーするんですよ。ついに。恋人は新婚旅行でカナダにスキーに行くほどのスキー好きらしいけど(けっ)、私は生まれて初めてです。ああ、楽しみだなあ。で、あったかいインナーとか帽子とかサングラスなどを買って、スマトラカレーの共栄堂に行く。ここのカレーはすごく好きです。以前仕事で100店近くのカレーを食べたけど、ここのカレーはベスト5に入るかも。ここは全部で4種類のカレーがあるんですが、すべてルーが違う。ひとつひとつスパイスの配合が違い、どれもすばらしくおいしいです。恋人はタンカレー、私はチキン。このご時世、タンを入手するのは大変だろうのに、タンがごろごろ入ってる。おいしいなあ!食後はこの季節限定の焼き林檎をいただきます。焼き林檎は林檎をまるごとオーブンで焼いたもので、生クリームをかけながら食べるんです。ちょっと甘いけどとてもおいしいので是非おためしください。

その後、お茶の水までぷらぷら歩いて、駅前のカフェモカとココアは品切れですと驚愕の宣言をする夜はダイニングバーになるチェーン店のコーヒーショップでコーヒーを飲んで、帰宅。

夜ごはんはカスレ。ちょっと前にブロックで買った豚肉の塩漬けに。白インゲン豆とソーセージを加えて炒めて、パン粉を散らしてオーブンで焼くだけ。簡単だけどとってもおいしい♪付け合わせはガーリックライス。今日は全体的に、汁物とご飯の組み合わせの食事でした。

ココア品切れのコーヒーショップでまずいコーヒーを飲みながら、昔むかし、ここで、どこかの男と、他愛ない話をしたことを思い出した。彼は、妻と子供の命なら妻を選ぶと言った。子供はまたつくればいいけれど、妻がいなくては作れない、と。
そのとき私は初めてそんな選択肢を知った。私は、自分の両親は、何があっても私の命を最優先すると信じていた。だけどまあ、冷静に考えてみて、まあ母は父と私なら絶対に私の命を優先するだろうけど、父においては、その確信はないなあ、と思った。あの人は、会社員として社会人として、非常に立派な人だったけど、母なしで私を育てる自信はないだろう。「子育て」を父一人が担うことは、今、彼が得ている地位や基盤をすべて、奪うものだった。そんな選択肢がもし、存在したとしても幸福ではないけれど。
目の前にいる私の恋人は、そんな選択肢なんてなくて、ただある日いきなり、妻を病気で亡くし、幼い娘を一人で育てることを突きつけられた人。そして15歳下のわがまま女に恋をした男。そんな境遇を、彼は狂うでも嘆くでもなく、その現実的な思考回路で、淡々と生きていく。
私と娘、どっちが大切?
そんな質問は、タブーではなくて、そういう選択そのものが、この人には架空ですらあり得ないから、意味をなさない。どちらかというとそういう空想にとらわれがちな私は、この温度差に、平静を保っていられる。こういうのが相性がいいということかな。私たちは全く似てないから。
似てないから、言葉にしたり言葉にしなかったものが、お互いの核心からいつもずれる。どんなに深くえぐっても、えぐり合わない。だから、せめて体で深く、ふれたいと思う。それは非常に大切で、かつて、言葉を発しても、言葉を発しなくても、細胞を破壊するほど、わかってしまう人がいた。体で触れあえば、さらに辛かった。氷のような恋だった。私は今でも、あの人のことを一日たりとも忘れたことはない。来世で、彼は私と巡り会いたいと言ったけど、私はごめんだと思う。おそらく前世で呪いをかけられたのかな。はやく。はやく呪いを解く呪文を。
ほらね。こうやって、すぐに空想にはしる私を、現実に戻すのは、今の恋人の役目。