珈琲

私の、厳しい要求、は、とどまるところを知らない。

意を決して、この1週間悩み続けた問題を、昼休み、やけに赤いチェーン店のコーヒーショップで恋人に、血を吐くように、打ち明ける。


7日間続く私たちの冬休みの一日を、二人だけで過ごしたい。


恋人は、微笑んで快諾する。
「しゃるは、そういうんじゃないかと思った」
そういうときの微笑みは知っている。
哀しそうな、困ったような微笑みで、だけど、とても優しい。
泣くわけではないけれど、目尻が少し赤くなる。
おそらく、私がぼろぼろと泣く行為と、同等の衝撃が体を駆けめぐっているのだろう。


私の瞳からは、いつものように涙が溢れる。
真っ昼間のコーヒーショップで、うつむいたコートに落下する私の涙は、ウィンドーから差し込む日差しにきらきらと光ってクリスマスツリーのガーラントみたい。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・。数え切れない。


「ごめんね」
そう言いながら、どうして我慢できないのか、自分自身に嫌悪するし、どうしてこんな些細な願いが叶わないのだろうとこの境遇を、哀しく思ったりする。


「なんで泣いてるの?」
なだめるように、困ったように、彼は言う。


どうしようもない現実に、絶望しているのは彼も一緒。
まだ、彼は、希望を持って、いるのかしら。


コーヒーショップだからいつものように抱きしめられない。
ふれあえなければ、こんなに遠い。


「自分が嫌なの」
私は繰り返す。


「自分が嫌なの」。



終わらざるを得ない恋かもしれない。
続ける気力は、やがて尽きるだろう。
我が儘な、私には許容範囲を超えている。
どんなに努力しても、いらいらは、やがてじわじわとやってきて、私は不機嫌に支配されてしまう。
絶望的な結末が、ゆっくりと、こちらに向かってくる。


だけど、せめて、誰か。
こんなにも愛し合っていた、と、何かに書き止めて、飾っておいて。