とぎれた糸で花を編んで

この週末はさんざんで、何がさんざんかを文章にしてしまうとあんまりたいしたことなくて悔しいのだけど、とにかく私は久しぶりに派手に泣きまくった。もちろんこんなに派手に泣くのは、抱きしめて慰めてくれる相手がいるからで、一人ならばこんなにぼろぼろと泣く必要もない。ベッドで抱きしめられて、ただただ無言で背中をさすってくれるのを心地よく感じながら、私は思う存分泣いた。


つまり何があったのかというと、土曜日、恋人は私と二人、横浜にデートに行く予定だったのに、昼過ぎ、その人の結石が再び痛み始めて行けなくなってしまったので、ベッドでごろごろしていたら気分が盛り上がりセックスをはじめたのだけど、まさに佳境というところで恋人の娘が戻ってきて、さらに生理が完璧に終わっていなかったので買ったばかりの超キュートな水玉のシーツと毛布が汚れた。お腹の上に頭をつけて、本当にごめんねという恋人を押しのけて、洗面所でシーツを洗っていたら、もうだめだ、と思った。
もうだめだ。もうだめだ。もうだめだ。
しかもネットでかったトイレカバーとスリッパは予想と違う色合いで、安めっぽくて下品だった。本当に、もう、なにもかも、いや。

リビングで鳴り響くアニメの音に胃がむかむかしてきて、私は、乱暴にバッグに水着を詰める。何時頃戻る?という質問にわかんないと言うと、拗ねたそぶりを見せる恋人。だって、本当にわかんないんだもの、と言った途端、バカみたいに大きな涙がぼたぼたぼたぼた落ちてきて、驚いた恋人を振り切って出かける。
どうして驚くのよ、と恋人の驚きに対して腹を立てる。
しかも、駐輪場には私のチャリはなくて、そういえば、金曜日、恋人と新宿で飲んで酔っぱらってチャリを駅に放置して帰ったんだった。
もう無性に哀しくて、そのまま道をばらばら泣きながら、歩く。さらに階段を下りるときにiPodをぶつけた衝撃で、iPodに納められていた音楽3000余曲がすべて吹っ飛んでしまっていた。なんてこと。こんなに哀しいときに好きな音楽すら聴けなくて、春になればそれはそれは美しいだろう、桜並木の川沿いを歩きながら、この川に身投げしようかと思う。

週末のスポーツジムは異様なほど混んでいるけれどゆっくり泳ぐコースと一生懸命泳ぐコースとたらたら歩くコースに別れていて、一生懸命泳ぐコースには人は少ない。くそみんな怠けモノめと思いながら、一生懸命泳ぐコースをひたすら泳ぎまくる。一生懸命泳ぎながら、それでも哀しくてどんどん涙が出てきてゴーグルの3分の2くらいまで水がたまる。塩分が目に染みて、さらに涙がぼろぼろでてきて、なんて人の体はばかなんだろう。自分で自分の体を痛めるなんて。

スポーツジムを出たときは一瞬気が晴れていたのにジムを下るエレベーターがひたすら混んでいて、またテンションが下がる。家には帰りたくない。



子供のことはたいした問題ではない、と思っていた。
時が経てば、自然に愛情は芽生えるものだと思っていた。
だけどそんな気配が全然ない。
どうしたらいいんだろう?
嫌いじゃないけど、好きでもない。
努力をしてもダメだし、がんばりすぎないようにしていてもダメ。
なにをやってもダメ。

だけどこの辛さは、訴えても訴えても、どうしようもない問題で、そんなことお互いにわかってるから、ただただ哀しいだけ。
久しぶりにゆっくりと本屋をぶらぶらとしたあと時計を見ると8時半をまわっていて、急にお腹が空いたと思ったら無性に牛丼が食べたくなった。変なの。普段牛丼なんて食べないのにね。それでデパートの地下で山形牛の切り落とし300g1500円なんていうものを買う。それでもまだしばらくうだうだして、9時半を過ぎた頃に恋人に電話をする。「もしもし、今から帰る。うそ。ごはん食べてないの?どうして?お腹空いたでしょ。あのね、牛丼食べるの。だからご飯炊いといて」。
もちろん私は恋人が私の帰りを待っていることを確信していて、こういう身勝手な「信頼関係」が壊れたとき、私はどうするつもりだろう?

帰宅して、とびきり贅沢な牛丼を作る。牛丼を食べながら、思う。
この人のことを愛しているんだろうか?

よくわからなくなる。
とてつもなく切ない物語の結末のために、
「あなたのことはとても愛しているけれど、でも、無理なの。ごめんなさい」。
そう言い放てるような気がする。それは、あり得ない幻想だから余裕を持って弄んでいるのか、それとも本当に羨望しているのか。
だけど、本当に愛している、とも思う。
この人がいなくては、とも思う。
だからベッドの上で抱き合って、私、本当に嫌な女でごめんなさい、どうしたらいいかわからないの、なんて涙を流しながら訴える。
本当に我が儘で嫌な女だ。

しゃくりあげる私を抱きしめて「どうしたの?」と困り果てたように訊ねる恋人に、「泣いている理由がさっぱりわからない?」と訊ねると、「だいたいはわかる」と言う返答。「だったら、いいわ」と答えるけど、男の理解なんてたいていは当てにならないし、たぶん私の想いとは激しく食い違っているだろう。
でも、そこに完璧な理解なんて必要ないし、語ってはならない部分を私たちは、よく心得ている。
決して、感情的になって突っ走らない恋人。
ようやく泣きやんできた私に「女の子は難しいな」とぽつりと言うその腕の中で、私は、この人は病気で生命を失いつつある妻を抱きしめたり、甘えん坊の7歳の子供を抱えたり、元気でぴんぴんしてる我が儘女をあやしたり、大変だな、と思う。
しばらくして、寝息を立てはじめる恋人に、ちょっと唖然として、だけどこの脳天気さが救いなのかも、と思いながら恋人の鼻を軽く噛んで、その昔、私の鼻の頭に傷をつけた恋を遠く遠くに思いだして、その余りの小ささに、今の恋もいずれそうなるんだろうか?それには、あまりにも深く足を突っ込んでしまって、この恋が、遠く遠くの星にするにもこの恋を続けるのも、まだまだものすごい涙が必要だろうなあ、と思う。