審判

Chartreuse2005-11-04

生まれて初めて妊娠検査薬を使って反応が陰性だとわかった2時間後に、安心したのか生理が来たしゃるです。こんにちは。

昨日は祝日。恋人とその娘と3人で、秩父にSLに乗りに行ってきた。遅れに遅れた生理はいつもに増して重くて辛くて、夜中に無意識にうめくたびに心配して背中をさすってくれる恋人にむしろ起こされてご機嫌斜めだったのですが、私のせいで眠れなかったらしい恋人は朝5時に起床しおにぎりを作ってくれる。ねばりにねばったのだけど親子に無理矢理起こされて不機嫌に台所でオレンジジュースを飲んでたら、かわいいおむすびがごろごろ転がっていてちょっと気も晴れる。それで朝7時45分という驚異的な時間に家を出る。お隣の県に汽車に乗りに行くだけなのに、どうしてそんなに早くでなくちゃならないんだろう?不満感をあらわに準備をすすめる私に「おへその隠れるパンツをはきなさい」と恋人。おへその隠れるパンツ?持ってないよー。

さて。熊谷までは湘南新宿ラインをいつもの通勤とは反対方向に乗る。ホームでグリーン券を購入すると割引っていう不思議な電車。しかもSuicaにグリーン券情報が記入されるらしく、座席に座ってから頭上にあるSuicaマークにSuicaでタッチすると赤のランプが緑に変わるんです。で、降りるときもまたタッチ。おっそろしくわかりにくいシステムで、英語表記なんてないし外国人旅行者には永久にわかんないだろう。ともあれ、席に座ってさっそくおにぎりを食べる。さて。子供連れの旅で何が楽しいかと言うとデスね。駄々こねるしうるさいし、歩くの遅いし足下にからみついてきて邪魔だし、話の腰を折るし、いきなり飽きるし眠りはじめるし、本当に子供連れのお出かけって私はだいっきらいなんですが(だって子供嫌いだからね)、電車の窓際がこんなことになっていて、ちょっと可愛いのです。

で、熊谷で乗り換えてSL。
久しぶりに窓から顔のでる電車です。で、夢中で顔を出してわーいわーいとはしゃいでいたら、気が付けば7歳の少女は座席で安らかに眠っていて、私だけすすで顔が真っ黒に。本当にひどい話です。
私は実は汽車の旅というのは全く好きではなくて、移動はできるだけ速やかに高速に行う方が好ましいと思っているので、飛行機の方が圧倒的に好き。乗り換えとか待ち時間とか不便なのがあんましないし。飲み物とかごはんとかでてくるし、映画とかみれるし。もしやむを得ず国内を有る程度の距離移動しなければならないなら、なるべくのぞみ。でも、嬉しそうにSLに乗る恋人の姿をみていたら、こういうのも良いなあと思う。もともと私は鉄道に乗るのが好きなんじゃないかとすら思ってくる。

いったん終点の三峰口まで行って(どうして全線乗らなくてはならないのだろう?)長瀞まで引き返す。長瀞は、私が舟に乗りたいと行ったからなんだけど、いきなり子供が舟に乗りたくないと言い始め、どうして子供ってこう人の楽しみを邪魔するのが好きなのか、理解に苦しむ。とはいえ、子供に合わせることはないと思うので、私は乗るけどと言うと、あっさり、じゃあ自分も乗る、と。一体さっきの主張はなんだったのかと問いつめたいけど、私も27歳という妙齢なんで、良かったじゃあ一緒に乗ろうね、とにこにこ。すっげーおとなわたし。

さて川下り。瀞とは流れのゆったりとした場所のことを言うらしく、長瀞とはそれが長いから長瀞というとか。ゆったりと舟で青緑の川を下る。で、ぼんやりと今年は舟によく乗ったなあと思う。ナポリ、ベニス、ブダペスト、ロンドン、ブルージュ、パリ・・・。と思ってたらあっという間に到着しちゃうけど、子供はもう一回乗りたくなっちゃったなどと、あり得ないことを言う。

その後そば屋で腹ごしらえ。長瀞の駅前にある八百屋でものすっごいでぶなエリンギを買って、帰途につく。

夜、ベッドに入って恋人に尋ねる。もし、子供が出来てたらどう思う?
私はその答えを確信している。

恋人は言う。
やっぱり、嬉しいよ。大変だけど。


その答えを聞いて私は世界で一番幸福そうな微笑みを、浮かべて強く恋人を抱きしめるけど、心の中で私は思う。
私は堕ろしたかもしれない。

その発想が私は悔しくて、目を閉じると涙がにじむ。
違う違う違う違う違う違う違う違う。

でも、何が?

幾人かの男と付き合ってみて思うのは、人と一緒に生きていく男と、一人で生きていく男に大別できるのじゃないかということ。
今までは、一人で生きていく男ばかりだった。こういうのはたいてい甘えん坊で、わがままで、人を巻き込みはするけど、共に生きることはできない。そういう能力を初めから持ち合わせていない。
一緒に生きる能力を持った男と暮らすのは、なんて楽なんだろう。あらかじめ私の大きさにくぼんだお布団にすっぽりとおさまって暖かな毛布が掛けられるよう。

私はその心地良いベッドでぐっすりと眠りに落ちる。

私は門前にいて、これは、「カフカ」だか「エリザベス・コステロ」気取りの夢だな、と思う。私のお粗末な思考能力で、一体どんな質問が浴びせられるのだろう?

案の定、質問は陳腐で、私は、伴侶を選ばなくてはならないらしい。
私は、わざと自信たっぷりに今の恋人の名前を答えようと、息を吸い込むけどその途端、背後でカチャリと鍵の音がする。
鍵。
思い出した。あの人が送りつけてきた謎の鍵のこと。

既にあの人と知り合って7年が過ぎて、ひとときの二人の時間が壊れて、それから何回新たな恋に落ちようが、必ず戻ってしまうあの人のこと。
尤もそこには最初から私の場所なんてなくて、惑星の軌道のようにくるくるとまわっては交差するところで必ずぶつかって、私に大火傷を残すだけのあの人のこと。
おそらくあの人にはそんな軌道をいくつも持っていて、たくさんの星を鏤めているのだろう。
そんなこと分かり切っていても、287日ぶりの抱擁で、君との関係は永遠だ、なんていう白々しい台詞を心に刻んでしまう。

そんな、七夕みたいな私たちの関係こそ、なにより強い絆じゃない?

報復に、伴侶は、あの人だと、背後の鍵を操る影を指さそうかと、思う。

そして、思う。
報復なのか。
ただ単に、失恋じゃないか。
あの人は、私を永遠に愛してはくれない。
私の望む形で。

だから私は、再び、自信をもって、今度は確信も持って、素直に純粋に、ありったけの感謝と優しさと愛情をもって、伴侶の名前を告げる。