気が済むまで打つよ

私がその人の前でどれほど安心しているかというと、ジンギスカンを食べたあと、口の周りにべったりとタレをつけたままハーゲンダッツの限定発売のチョコレートミッドナイトクッキーが食べたいなんてねだるほど安心して頼り切っているんです。


黒ごまのシフォンとアイスジンジャーティーを飲みながら、「自分の子供が生まれたら、やっぱりどうしても亡き奥さんの子供とは同様に愛せないと思う」という相手に、だから?と思う。仮に私が自分の子供を数千倍数万倍数億倍愛そうが、誰かに悟られなければいい話じゃない。どうせ嘘を付き通しの人生。そんな些細な嘘をつくくらい、造作ない、と思う。


後かたづけが若干残っているものの、引っ越しも完了し、久々に丸一日空いた日曜日。恋人と私はスポーツジムに通うことにした。恋人は中年体型を克服するため、私は甘やかされてくつろぎ気味の体型をリフレッシュするため。
最寄りの駅のスポーツクラブ。きまじめな恋人はまずは見学からとか言って、しかも1、地図を使っての自由見学、2、iPodを使っての見学、3、インストラクターの説明付きの見学で、3をご所望される。そのくせに基本無口な人だから、インストラクターへの相槌とか質問とかつっこみとかぼけとか私がしなくちゃならなくて大変なのよね。一通り見学をした後、なんだか裸足で機械の上に乗って金属の棒を掴むと体脂肪だの筋量だの水分量だか測られる。私は何を隠そうもと陸上部で運動はできる。できるけどなぜか運動音痴だと思われていて、悔しい。恋人も私のことをてっきり運動をしない女だと思ってたらしいけど、結果、見事私はアスリート体質ということが判明し、大満足だ。鼻高々だ。だけど勝手に人のウェストとかヒップとかもはかり、ウェストヒップ差が平均よりも少ないです、とか言われてちょっとむっとする。
で、まずは形から入る恋人と私。ナイキとアディダスのウェア合戦。経済力がちょっと上の恋人の方がそりゃあ良い物を持っているが、私には15年分の若さがあるもの。一緒にスタートした有酸素運動は、私の勝ち♪
気持ちよく運動したあとは、シャワーを浴びて、お買い物。冷蔵庫に鎮座するキャベツの処分方法として、おうちジンギスカン。ただいまブームまっただ中のジンギスカン鍋は売り切れだったので、アルミ製の使い捨てジンギスカン鍋を購入。で、生ラム肉とたれを買って帰ってまずはビールを飲んで下ごしらえなんだけど、新しいiMacで遊ぶ恋人を尻目にひとりでもやしのヒゲをとっていたら、中華料理屋の下働きの気分になってきてちょっと哀しくなった。
ともあれジンギスカン、おうちでやっても美味しいです。週に二回ジンギスカン。どれほど羊好きなんだ我々は。メエー。てこれは山羊?あれ。羊の鳴き声ってどんなのだっけ?
て感じで、一日はあっという間に終わります。見たい映画も読みたい本も一人の散歩も、なにもできないよ。でもいいの。今は二人でできることの方が楽しいんだから。って思いながら、ヘビースモーカーで果物の、きらいなその人のためにグレープフルーツを剥いたりして食べやすいように、袋からひとつひとつだして器に入れる。へー。結構私、尽くすタイプじゃん。やればできるじゃん。
だって打てば響く鐘ならね。今までは、打っても打っても打っても、響くどころか、鐘は遙か頭上の虚空。
届くはずもない鐘を、掴もうと必死だったの。
今は、目の前にとっても大きくてきれいな、鐘があって、いつでも好きなだけ、鳴らすことができるのよ。
だけど、届かない、鐘の音は私の心の中でとても澄んでいた。美しかった。
だって、一人で鳴らす鐘だもの。なんの配慮も優しさもなく、ただがむしゃらに愛した。そのひたむきは、今でもちょっと眩しいし、だけど笑って思い出せる、ちっぽけな記憶の一つでしかないの。