スピード

アイネ・クライネ・ナハトムジークはセックスのBGMに恐ろしく不向きだと気づいたしゃるです。ご無沙汰しています。

えーっと。なにから書こうかな。

すっかり秋だなあなんて気づいた9月も残り少ない休日の朝、パジャマのまま買ったばかりのコーヒーメーカーのこぽこぽという音を、何か小さな生き物の心臓の音のような気分で聞いていたら、スツールに腰掛けて煙草を吸っていたその人が、私を抱き寄せて、おそらく世間一般でいう、プロポーズというものをした。それがあまりに自然で素朴だったから、私はそれが自分の人生にあらかじめ予定されていた最高の道じゃないなんて、思いつきもしない。微笑んで、その人のおでこを自分のお腹に引き寄せる。そして、苦いキスにわざと顔をしかめて、奪い取った煙草を灰皿にもみ消す。
とはいえ、苦いキスは慣れっこで、それ以外のキスは知らない。
もう永遠に、知ることはないのかしら?



よく考えないまま、事態はどんどん流れていく。「結婚式はね、トスカーナであげるのよ」という私の言葉が現実味を帯びていく。銀座で買い物のついでに必ず見ていたミキモトのティアラは、レンタルで海外に持ち出せるのかな?という具体的な問題が発生する。ティアラの輝きが鈍る。私は一体何をやってるの?
いきなり、何もかも放棄したくなる。


異様に几帳面に、食器を洗うその人の姿をぼんやりと見つめながら思う。この人生でもう一度結婚しようと思うなんて、この人の、前の結婚生活はそれは素晴らしいものだったのだろう。たったこれだけの期間付き合っただけの私でさえ、その丁寧に食器を磨くその人の仕草がもうこんなにも愛おしい。あの人は、瞬きのたびにかつての幸せの残像が私と重なるのかしら。そして、目を閉じるたびに、認識範囲外で、二度と目を開きたくない、そう思うことがあるのかしら。


久々に逢った友人に、すごく穏やかになった、と言われた。とってもいい雰囲気だね、と。それで、安堵して、生まれて初めてゼクシィを買ってみる。余りにも重いため、専用の布袋つき。それを自転車のカゴにいれたら重くて自転車が傾く。帰ってビールを飲みながら、一緒にゼクシィをめくる。プライベートな日記には「彼は一度経験済みだから、頼りになるわ」と綴るけど、どうして誰の目にも入るはずのない日記の中で強がっているのだろう?
嫉妬じゃない。おそらく嫉妬ではないけれど、いろいろなことを考えるはじめると「無理だ」という想いに支配されていく。いや、違うな、「無理」なんじゃない。「いや」なんだ。
何が?
あーーー、やっぱり嫉妬か。まいったな。もっと軽度のうちに気づいとけばよかった。こんなに根の深い嫉妬に発展してから気づいちゃあ、取り返しがつかないのよ。愛のスピードと嫉妬のスピードは一緒でなくちゃ、だめなのね。ようやく愛に嫉妬が追いついて、さて、またまた生まれて初めての感情を体験できているしゃるでございます。そういえば、27歳まで後10日ちょい。