牽制

早朝、体の異変で目覚める。それがはじめ何なのかわからなくて、だけど体の中の大きな冷たい固まりが私の皮膚を突き破って出て行きそうで、手は震えるし、意識は遠くなるし、これは死ぬ、と思った。原因は、生理痛です。生理痛。おそらく私は生理痛で命を落とすと思う。救急車を呼ぼうかどうしようか迷って、だけどたかだが生理痛だし、理由が生理痛ならば医者も手の施しようがなかろう(先日の婦人科検診では異常なかったし)。鎮痛剤を投与されるだけで、苦しむ場所が自宅か病院かなだけの違いなわけで、いいや、ここで私はひとり寂しく死のうと思った。だけど心細くなって、瀕死で掴んだ携帯で、だれかに助けを求めたい。朝6時前。勤め人の友達にかけるのも悪いし、両親だと本気で心配するだろうし、朦朧とした頭でかつての恋人のダイヤルをまわす。今の恋の相手がでてくれないと本当に落ち込むけど、かつての恋人なら出なくてもそこまで落ち込まない。そう、私はいつもそういう風に過去を引き合いにだして今の牽制に使うのよ。弱虫なのよ。もし生還したら、絶対にあの人に愛を告げよう・・・と思い、緑のカプセルが生理痛を神秘的な病気のように錯覚させてくれそうなリンクルアイビー(痛み止め。よく効くよ。愛用)をなんとか飲み込み、再び昏睡状態へ。起きたら10時半。痛みはすっかり消えて、今は会社でお仕事中。良かった・・・救急車呼ばなくて。愛の告白の決意なんてすっかり忘れて、今は今朝電話に出なかった男へ軽く憤っている。
あなたはどうして私が必要なときに必ずいないの。
いや、もういる必要はないんだけどね。こういう甘えはよくないと思いつつね。

過去を牽制に使う。
瀕死の床にありながら思い至った自分の心に、少しぎくりとした朝でございました。