たこ焼きパーティー

今日はパーマをかけた。私の地毛は激しくストレートなのですが、 18歳の頃からずっとずっとパーマをかけ続けている。軽いウェービーヘアはもはや私のアイデンティティ。変なの。ストレートになりたがる人がいたり、ウェービーヘアに憧れる人がいたり。それでこんなことに何万も使ってるなんてねー。地毛を受け入れればいいのに。最初にパーマを考えた人って何考えてたんですかね。あ、でも今回のパーマは最高です。昨年 8月に大失敗をして以来パーマには慎重になってるんですが、今回は満足。よかった。これで失敗したらたぶん死んでた。



そろそろ潮時だ、と思っている。
約束も、何もない私たちが、このままだらだらと一緒にいるのは芳しくない。
どんなに理性を働かせても、重ねた時間は体に染みこむだろう。
だけど、ばかばかしい、とも思う。
潮時って、何が。約束も、なにもない二人がただ、一緒にいるだけ。
それが、楽しいのだから、それだけでいいじゃない、と思う。
断ち切る理由は、ないでしょう?


その美少年のワードローブの中で、彼が自分で買ったものは一体どれだけあるのだろう。
それはもうあらゆるテイストのあらゆるブランドが無節操にハンガーに掛かっている。ふと目についたブランドを列挙してみましょう。キム・ジョーンズのTシャツ、スーツはドルチェ&ガッバーナ、鞄はプリングル(スナック菓子みたい)、ベルトはヴィヴィアン・ウェストウッド。シンプルなタートルのニットはTom Ford。車?と思ったら、for Gucciですって。手触りいいなー。あとはね、クロム・ハーツのシルバーアクセサリーに、クリスチャン・ロスのサングラス、モード系で超かっこいい!とこの冬思っていたブーツをのぞき込むと、BRUNO BORDESEとの刻印がございます。存じ上げませぬがたぶん偉い方なのでしょう。実際にこの人は服装にはそうこだわらない。ほっとけばTシャツとデニムで過ごすだろう(それがまた似合うんだけど)。だから、贈られた洋服は喜んで、というかとくにうれしくもないんだろうけど、まあ不平もなく受け入れて、一回きりかもしれないデートにそれを着て赴くのだろう。確かにどんな洋服でも着せたくなっちゃうし、そして似合っちゃうし、私だってありあまるほどお金があればいくらでも買ってあげたいけど、そろそろだるだるになってきたブラジャーさえ新調できない私。ずらりと並ぶ腕時計を見て、このうちどれか一つ質屋にいれて、新しい下着が欲しいとさえ思う。
そのきらびやかな時計のコレクションの中で、私が彼に贈った唯一の固形物、アニエスの腕時計は、最も地味で見た目も値段も非常につつましいが、私と会うときはいつも彼の腕に満足気におさまっている。たぶんそうした心遣いにさしたるエネルギーを要さないところが彼の愛される理由であろう。決してマメではないが、ポイントははずさない。生まれながらにきっと身に付いているのだろう。愛される才能。そしてそのアニエスの時計は、昨年の暮れ、あの人のしている腕時計がもうさびついて、そろそろ時も正確に刻めそうになさそうだったので、本当に純粋にお節介に、迷惑がられるかしらと想いながらも、どうしてもあの人にあげたいと思って買ったものだけど、渡そうと思ったクリスマス近いデートの日は何の連絡もなくすっぽかされたので、絶望と嘲笑と精一杯の愛情を込めて、この人にあげた。別に彼は腕時計なんてほしがっていなかったし、実際に有り余るほど腕時計を持っているのだから、その中途半端な時計を受け取ったとき、この人はどう思ったのだろう?
彼の腕に巻かれたその腕時計を見るたびに、この世の中はすべて、嘘だと、思う。

そう、とても、優しい、嘘だ。


「日常を積み上げる」が今後の私のテーマなのだし、その訓練をしよう。手始めに、「一緒にごはんを作って食べる」をやってみることにする。珍しくどきどきしながら、美少年に電話をする。
「あのさ、一緒にごはんつくって食べない?」
「いいよ。お腹空いたし」
「何か食べたいものある?」
「たこ焼き」
「たこ焼き?」
「そう、たこ焼き」
「そうか、たこ焼きか」
と、いうことでタコを買う。小麦粉を溶く。穴の開いた鉄板を温めて、そこに生地を流し込んで、頃合いを見計らって、金属の棒で、くるくるって。たーのしーいねー。っていかーん!これは日常じゃなくて、たこ焼きパーティー。しかも時刻は深夜 2時。思いっきり非現実的だわ。
ま、いっか。それは最高に楽しいパーティーだもの。
彼は言う。「君と僕はとても似ていると思う」。
その意味はわからない。私には、ときどき同じ人間かと、疑うときすらあるのに。
ともあれ、たこ焼きをひっくり返す。ビールを飲む。焼酎を飲む。明日仕事があると言うのに、時計を見ると4時。かまわないわ。今から寝れば、3時間は眠れる。
たぶん、これが、私たちの唯一の現実。


眠りに落ちる直前に思う。私たちは、似たもの同士かしら。
じゃあ、あなたは今、私が叫びたい言葉を、俯けばこぼれるかもしれない涙のことを、知っているの?
そして、祈る。
ああ、神様。どうか、今だけを愛する才能を、私に。