ローマ初日

成田エクスプレスの出発2時間前まで恋人といちゃついていて、危うく乗り過ごすとこだった。その祟りか出国したあと、免税店でうきうきとランコムを買っているとかなり大きな地震が。最初は飛行機の着陸時の振動だと思ってたけど、そんなわけないよな。

しかし地震に影響されることもなく、出発。飛行機の中で、最初に行くホテルの場所や名前を確認。JALの機内食は相変わらずだが、ビールにサッポロがあったから許す。

満腹になった後は、爆睡。ここ一ヶ月ほど、続けて3時間以上眠ることがなかった(さてなんででしょう?)。久しぶりに良く寝る。甘い甘いデニッシュパンが私を起こす。中途半端な時間に中途半端なおやつ。うーん。
それでもなぜか一口囓って、劇的な甘さに、穂村弘を思い出す。
甘い甘いデニッシュパンを死ぬ朝も丘に昇って食べるのでしょう。

そして再び寝て、次に起きたときは泣いている。残してきた人のことを思う。数時間前に抱き合って、泣いて、帰ってきたら、真剣に考えようと話した。今度の恋は、あまりに私には責任が重いことに気がついて、だけどもう、すっかり私の体の一部となってしまって、私は相変わらず抜け出せない。捉えられるのが好きなのね。縛られるのが好きなのよ。だってMだし。裏腹に、体はトンネルをくぐり抜けて、ようやく旅にでた実感がくる。押し出されていく開放感。
私は、旅が好きだわ。行くなと言われても行くだろう。


ローマのホテルに着いたのは20時過ぎで、荷物を下ろしてから、ホテル近くのカフェでビールとパニーニを食べる。楽しそうに食事をする人々。ビール一杯は少し疲労の残る私の体を気怠くしていき、だんだんと、残るのは、体の芯の擦れたような熱。内側を液体がつたう感覚。初めて、こんな気分を味わった。今までの旅はもっと乾いた気分だった。砂漠の向こうから乾いた風が、やってくるような。今は、濡れた甘い空気が私を包んで、目を閉じると遠くの山に降る細かい雨にかかる虹がある。テーブルにつっぷして、いつものように恋人が、私の背中を愛撫してくれるのを待つ。
「Are you OK?」とウェイターが私の肩を叩いて、飲み過ぎか?と訊く。
まさか。ビール一杯で?
勘定を済ませて、ホテルまで帰る道にあるカフェにもう一軒よってしまう。
アマレット
甘い、甘い、濃厚なリキュール。それは私の食道に沿って胃に落下してびっくりするくらいの存在感となる。胃に手を当てて、なんとなく、愛おしいと思う。胎内に、何かがいる感覚。疑似でも。
世界が廻るわ。おやすみなさい。ゆっくり。旅ははじまったばかりなんだから。