未知

Chartreuse2005-07-24

「平成16年4月10日」と記されたその人の妻の位牌の前で抱き合って、私は、少なくとも私は、この15歳年上の恋人よりも長く、生きてあげようと思う。無邪気に、子供のようにその人の腕の中で安心して、それでももうこの人が、今後二度と、それほどの孤独を、絶望を経験しなくてもすみますように、と願う。



久しぶりにBBQパーティーなんてものをした。その人のアパートのテラスは広くて、BBQコンロなんてものをおいても全然余裕で、その人の手作りのサングリアなんて飲みながら、下ごしらえされたラムや海老やスペアリブなんて食べる。料理は驚くほど美味しくて、テラスから吹く風は涼しくて、相変わらずシャンパンにサングリア、白ワイン、赤ワイン、ビールなんてのが次々空いていく。とても4人で空けたなんて思えない。14時から始まったBBQが終わったのは22時30分のこと。



その人がシャワーを浴びている間、私は壁に貼られた数々の、戻らない人の写真を眺めて、驚くことに涙が出そうになる。なんだろう。写真ですらわかる、だんだんと線が薄くなっていって消え入りそうになるその姿を、見守って行かなくてはならなかったその人の、苦しみを思うと、ただただ哀しい。嫉妬とか同情とかそんなのではなく、もっと透明な、想像力とかそんなのではない、目をそらすことのできない事実が。いきなり頭を撫でられて振り向くといつの間にかその人はそこにいて、その手は本当に大きくて優しくて、私は愛おしい、と思う。
まだまだ、知らない感情がたくさんあるのね。
どこに、いくのかしらこの感情は。
願わくば、一生、私がこの人に、こんな優しい気持ちを抱ければ。