火傷

Chartreuse2005-06-23

かくして私はドラキュラの妻として生きていくことになったのだが、傍目にはドラキュラの妻だろうがもてない26歳女だろうが大差ない。さしあたって私の課題は健康に健全に26歳の女として楽しそうに生きていくことだと思う。

よって一昨日は渋谷はセルリアンタワーにあるライブハウスJZBratへ。カナダ・フランスの音楽界に彗星のごとく現れたチェロリスト&ボーカリスト、ジョラーヌのライブに行きます(なんといつも楽しく日記を拝見させていただいているid:emimi:20050621さんもその日同じライブハウスにいらっしゃったと知ってどきどき!今までの人生で一番の接近でした。わかってましたらご挨拶さしあげましたのに)。素晴らしい声、素晴らしい演奏。思わず涙ぐむくらい良いライブでした。やっぱり音楽はライブだ、と思った瞬間。いただくのは白ワインと、サーモンとアボカドのサンドウィッチ。音楽とお酒と美味しいごはんさえあれば、人生は完璧なんじゃないかしら。どうして、いつの間に水銀の固まりのようなものを、体に抱えてしまったのかしら。
その後興奮醒めやらぬまま、公園にてビールを飲む。夜の風は雨の匂いを含んで、明日の朝はきっと雨だろう。起きると案の定、外は雨降りだけど、梅雨の朝らしい明るい雨で、網戸に水滴が輝いて、それはそれは美しい。


再び夜がやってきて、相変わらず渋谷。ベルギービール屋でムール貝と、本日のゲストビールGouyasse Tripleを飲む。力強いボディーと華々しい香り。素晴らしいビールです。3杯目には世界は幸せに崩れはじめる。地下に下り重いドアを開けたところにある小さなこの店は、隠れ家のようで、特に急な狭い階段を上がったところにある入り組んだ中二階は、火事が起きれば真っ先に煙りがやってきて私たちを捉えるだろう。その美しい指でマッチを擦る度に、その加えた煙草の先が薄暗い店内で蛍のように舞うかすかな光の残像を追いながら、私は煙に巻かれて抱き合って、じわじわと熱が私たちを追いつめる様子をうっとりと思う。


日付が変わった直後。雨の音を聞きながら、私の呼吸に合わせて上下する脳に、詩を読み聞かせる。誰だか偉人の詩は、いつの間にか私の詩となり、あのとき発したたったひとつの言葉で失った、その重みにおののきながら言葉を絞り出す。


今世紀初というその人の涙と、今日初めての私の涙。
その人の涙は、私のみぞおちに、落ちて火傷を残すけど、仰向けのこめかみを伝う私の涙は髪を縫って私の脳にしか還らない。
大丈夫。貴重なあなたの涙と違って、私は毎日泣けるから。
いくら泣いたって、薄まらないし、温度も下がらない。
相変わらず、溶けた鉄のような私の涙に、触れる覚悟ができたら、また来て。