死ぬまで

「君の心の孤独を知っている」という常套句でどれだけの性欲を満たしてきたのだろうと思いながら、その薄っぺらい男の腕の中とはいえ、その人のあまりのロマンチストぶりに感動に似たものを覚える。
「君が自由な女であるために、どれほど無理をしてきたのだろう」。

私は笑いを堪えるために、背中に廻した腕に力をこめるけど、たぶん彼はその反応に、セオリー通りに進んでいると、取り扱い説明書を一つめくったところだろう。次は、うなじにキスをしながら私のまとめた髪の毛を、ほどくの?
私は心を開いたフリをするために、少しばかり色づけした「辛い人生」を語るけど、語られる人生なんて既に過去なの。
女はね、大切なことは口にしないのよ。


本日は、起きたら 14時半だった。2週間前からずっと異様なテンションで生きてたから、久しぶりにゆっくり眠ったような気がする。夕方渋谷にでてバーゲンをぶらぶらするけれど、取り立てて欲しいモノもなくて相変わらず本屋。柄谷行人を買う。セガフレードでぱらぱら読んで家に帰って食事。シメイとサーモンのバジルソースのムニエル。ああ。おいしいなあ。外は雨が降っていて、雨の音を聞きながら日曜日の夜に一人でゆっくりとごはんを食べるというのは、代え難い幸せだと思う。

そして、思う。
自由な女でいるために、私は無理をしたのだろうか。

いやだって、私はちっとも自由じゃないのよ。どこをどうしたら、私が自由な女に見えるというの。

過去の恋に捕らわれて、今の恋に臆病で、いつだって満たされない。

友達と、恋人に求めるものについて話した。
安らぎ。安心感。一体感。精神安定剤

私が求めるのは、昂揚と非日常。
本について、音楽について、芸術について話して。
私のつまらないおしゃべりなんかより、あなたの素晴らしい世界を私にみせて。


その人は、いつも私に「君がもっとかわいかったら」というけれど、もっとかわいかったらどうだというのかしら。
よりを戻してやってもいいというのかしら。
それとも、かなり真剣に本気に根気強く探さないと分からない、私のちょっとした良いところを発掘しようという情熱を持つ男があらわれるだろうのにね、と慰めているつもりかしら。
どっちでもいいけど、私はそのままのあなたを、受け入れる気も排除する気もない。
もはや私の体の一部となって、そこで息づいているの。寿命も性別もない。死ぬまで一緒よ。