ねじまき鳥

Chartreuse2009-05-08

なにもない私だけど、時間ならあり余るほどある。今日は朝から激しい雨だったけど、夕方になって水の底のような部屋に明かりが差し込んできたので手紙を投函しに出かけた。洗いざらしのゆったりとしたTシャツを着て、リラックスした綿のパンツをはいて、まだ水たまりが残る道だから、ダイビングで使い洗ったまま放置していたクロックスに素足を突っ込む。ブラシでといただけの髪の毛は束ねることもせずそのまま風になびかせて、洗顔後SPF30の乳液をつけたままの肌にはファンデーションをはたくこともせず、唇は蜜蝋とスイートアーモンドオイル、そしてミントのエッセンシャルオイルを加えて作ったリップクリームを、乾燥防止に塗っただけ。
5月の初旬の雨上がり、空気の塵は全て洗い流され、青々と茂った桜の葉や庭先に咲く花々、スイカズラシャクナゲ、白丁花の白や赤をまるで熱帯の花々のように鮮やかに見せる。それでも空気はほどよくひんやりと軽く肌をなで、そう、これはパリの6月の夕暮れみたい。だけど、おかしいの。生まれ育った日本の、夕暮れの街を歩くのに、私は1、2回訪れた旅先をいちいち引き合いにだす。
なにかと比較してしか、私は今いる自分の世界を語ることができない。

考えてみればこの2年間、私は自分の言葉を売って生きてきた。
自分のための言葉はなにひとつ残っていなかった。



村上春樹の「アフターダーク」を再び読んでいる。
もう14年もの間、なにか辛いときは村上春樹を読む。その事実だけでも村上春樹はすごい作家だと思う。文学上の難しいコトはわからないけれど、辛いときに慰めをくれるものー音楽でも絵画でも詩でも、それは、絶対的な消費者である私にとっては最も価値のあるもの。そういえば、まだ若い頃、理解できもしないのにロンドンのテートモダンを訪れたことがある。ワケのわからない現代アートが並ぶ中に、ひとつ目を惹く絵画があった。それは何をモチーフにしているのだかさっぱりだけれども、妙に心に響いた。作者を観ると、パブロ・ピカソ。なるほど、本当に偉大な芸術家の作品は、観る人の教養を選ばないのね。「プリティ・ウーマン」でもヴィヴィアンは、「椿姫」のアリアに涙していたものね。だけど、あの映画のテーマって何なんだろう。男は美女が好き、女は金が好き?

そんな感じで、私はねじまき鳥がねじを巻くのを待っている。